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音楽教室の”安い”を考える:習い事の費用対効果 コスパ タイパ

音楽教室の”安い”を考える:習い事の費用対効果 コスパ タイパ ブログ
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ネットで検索を行うと、音楽教室に”安い”という検索ワードが付随しているのを、ちょくちょく見かけます。

音楽を習うには楽器や楽譜が必要です。それに、楽しい、技術が身についた、といった+αの効果がなければ、お金や時間をかける意味はあまりないように思います。

なので、月謝の安い教室を探すだけでは、一概に安い高いは判断できないでしょう。

そんなところから、と習い事の”安いとは何か”について考えてみました。

音楽の習い事における費用対効果

費用対効果とは、支払う金額と価値の差、とあります。

費用対効果はコスパとまったく同じ言葉と説明されることもありますが、習い事の価値は、タイパ(タイムパフォーマンス)つまり時間対効果も加味しなければはかることができません。

・習い事にかかる諸経費

・習い事にかける時間

にまで拡大して、得られる効果を算定してみましょう。



習い事の費用内訳

月謝

地域差は大きいものの、ピアノレッスンの相場はグループレッスンで月額6,000円、個人レッスンで月額8,000円となっているようです。

つまり、この金額より安い教室であれば、割安ということになります。

オンラインレッスンにはもう少し安い価格設定もありますが、レッスン時間や内容を鑑みると、対面レッスンと比較して驚くほど安いという印象はありません。

月謝以外に入会費や設備費、発表会会費といった支払いもあるので、年間額は、ざっくり80,000~110,000円くらいでしょうか。

楽器代

ピアノレッスンを受けるには、88鍵揃ったピアノが必要です。

幼児のうちはおもちゃのキーボードや小さなピアノで充分ですが、浅く鍵盤をタッチする癖がついてからピアノを買い替えると、重くて弾きにくくてピアノ嫌い(=ピアノ買い替えと同時期に挫折)という悲劇が起こりがち。

そうならないように、「今後続けるかどうか」を検討し、良いタイミングできちんとした楽器を用意したいところです。

なお、鍵盤のしっかりしたものであれば、電子ピアノでも中古ピアノでも住宅事情や予算に合わせて選び放題です。

ただし、電子ピアノは電化製品なので10年保証と思った方が無難です。

フリマアプリで古いモデルを購入すると、すぐ故障というリスクもあるのでご注意を。


・練習に適した電子ピアノの相場:20万円前後

・中古アップライトピアノの相場:30万円~100万円

・新品アップライトピアノの相場:80万円~150万円




中古ピアノは、コンディションの個体差が大きいため、実際に展示場へ赴くのをおすすめします。巡り合わせによってはとてもお得な買い物ができることも。

ちなみに、実家のピアノを自宅に設置しようという場合は、楽器専門の引越し業者に依頼する必要があります。

買うより安いと思っても、条件(エレベーター有無、玄関運び出し可否)によっては意外と高額になってしまうケースもあり、さらに到着後の調律も必要なため、事前のお見積もりは必須です。

楽譜・教材代

楽譜は、無料で閲覧・利用できるものもありますが、紙ベースでしか購入できない作品もたくさんあります。

・レッスン教材:1,500~2,000円/1冊

・1曲ピース:500円/1曲

・名曲選、作品集:2,000~3,000円/1冊


色々な考え方の先生がいらっしゃると思いますが、個人的には「これ弾きたいです」、「この楽譜を買ってみたんですけど」と、楽譜を持ち込みしてくれるのは嬉しいです。

レベル別にアレンジを変えてリリースされている曲もあり、ネットからDL(ダウンロード)で購入し、自宅やコンビニのコピー機でプリントできるサービスも充実しています。

そんなわけで、教本や楽譜の年間費用は年齢や音楽に対する興味関心の大きさでかなり幅が出てきます。

レッスンで使用するテキストにプラスして好きな曲をいくつか購入するとして、年間5,000~10,000円くらいではないでしょうか。

費用以外の内訳

通うのにかける時間

共働きで忙しいご家庭を見てきて思うのは、「送迎ってとてもたいへん」です。

極端な話、月謝激安でも保護者送迎必須の場所にある教室に通うより、月謝は平均程度かかっても送迎は帰りのみ・途中まででOKの安全圏にある教室に通った方が、コスト的に見るとお得なのではないか?と思うほどです。

とはいえ、「通いやすい」のは単に近所というわけではなく、生活圏で検討するのが良いと思います。


・学齢が上がれば一人でも通える学区内にある

・他の習い事と距離が近く、一度に送迎できる

・ついでに買い物をすませる場所がある

・通学/通勤の最寄駅にある


オンラインレッスン併用可能な教室ならば、送迎ができない時に切り替えするという奥の手(?)も使えます。

練習にかける時間

これは、家庭の問題、と思われるかもしれません。

練習のフォローなんて、どうにか家庭でやるしかないでしょ、と思っている。

しかし、これは指導方法の問題でもあります。

譜読みの基本をレッスンで行わず、「この曲とこの曲をおさらいしてきてね」と言うだけの教室。

慣れるまでは気をつけるポイントを予習スタイルでアドバイスして、段階的に一人での譜読みができるよう促す教室。

お子さんが実際に練習するかどうかは別にして(それは当然、別です)、家庭の苦労が軽減されるのは圧倒的に後者の教室です。

習い始めの段階では、練習しよう、ピアノの前に座ろう、という声かけを家庭で行う必要がどうしてもあります。

しかし、本来はつきっきりで監督していなくても予習した内容を少しずつ練習していけば、宿題(課題)の曲は仕上げられるはずなのです。

この辺りを「ピアノは家でつきっきりのフォローをしないといけない習い事」と思い込んでしまうと苦しく、自らかかるコスト(負担)を大きくしてしまう可能性があります。

体験レッスンでは、通常レッスンの方法についてチェックしておくと良いかと思います。

芸事(習い事)にコストをかけて得られるもの

本来なら、費用対効果を考えるなら、かかる経費の総数を出すべきですが、ピアノの減価償却期間(本来は5年)も加味すると相当ややこしいので割愛します。

何より、ピアノや教本は毎日使用した人とそうでない人とで、いわゆる「元が取れる」かどうか変わってくるはずです。

楽器代金は、「買ってよかった!お釣りがくるぐらい使っている」と感じる人もいれば、5年で積み重ねたのはピアノの上の埃のみ、そんな人もいます。

さらに、ピアノという芸事に費用をかけて得られる”効果”とは、実利的な価値を持つものもあれば実体を伴わない体験価値的なものもあります。

ゆえに、一般的な概算を挙げたところで、それに対して得られる効果と数学的に天秤を示すことはできないでしょう。

できるのは、ピアノという習い事を通じて何が得られるのかを提示して、それにかかる費用が高いのか、安いのかを判断していただくことだけです。

実利的な効果

音楽のスキル

よほど特殊な学校でない限り、義務教育中は音楽の授業があります。

そして、授業以外に学芸会、音楽会、音楽集会など呼び名は異なれど、音楽に親しむイベントは意外に多いものです。

受験が低年齢化するなかで、音楽の授業に四苦八苦して時間を取られるよりは、音符やリズムが分かり、学校の音楽は授業もイベントももはや娯楽さ、という方が何かと余裕が持てるのではないでしょうか。

今はそれほど数が多くありませんが、大学の推薦入試でも「課外活動」に習い事や地域のスポーツ活動を含める動きが広がっています。

継続は力なりと言いますが、抽象的な力ではなく、受験に対しても具体的な力となってくれる時代がくるかもしれません。

検索の能力

YouTubeで簡単に名演奏が聴ける時代。

絶盤の音源を探し回り、テープ、MD、iPodへ落としていたあの頃とは違います。

しかし、「知らないことは調べられない」というのが、検索の致命的な欠点であり、これを克服するのがレッスンです。

誰の演奏が名演奏なのか。この曲の解釈は合っているのか否か。世の中にはどのような曲があるのか。

レッスンで音楽を教わることで、それらは知識として蓄積されて、世界を広げるのに役立ってくれます。

教養

音楽は、セブンリベラルアーツ(自由7科)の一つに数えられていて、古代ギリシアから、よりよく生活するために身につけるべき技芸とされてきたようです。

折しも現代は、多様性が重んじられ、プログラミング教育をはじめとするリベラルアーツ(教養)が重視される時代となりました。

古代ギリシアの風潮を再解釈するならば、勉強だけでなく世の中のことや芸術のこともよく知っておくと、心身ともに豊かな生活が送りやすいよ、ライフワークバランスを整えるのに有益だよ、ということなのでしょう。

とかく生きにくい現代社会において、心の杖となる支えをたくさん持っておくのはもはやサバイバル術の一つと言えるでしょう。

しかし、音楽は、5分の曲を聴くのに5分かかり、曲を理解するのにはそれ以上の時間が、そして弾きこなすのには何倍もの時間がかかります。

ゆえに、リベラルアーツとして身につけるなら、一日でも早くそしてコツコツ長く触れる方が良い、ということになります。

プライスレスな効果

絶望感と達成感

自主練習が必要な習い事というのは、言い換えればごまかしの効かない習い事でもあります。

宿題が終わらなくて親に手伝ってもらった、課題を忘れて提出日を延長してもらった、そんな記憶は誰の中にも一つは眠っていることでしょう。

しかし、音楽のレッスンは自分が練習してこなければ1ミリも進歩はしません。

「人前で演奏しなければバレないでしょ。発表会さえ出なければOKさ!」

と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、これは予習をしなかったレッスンが続いた時の冷えきった空気を知らない、幸せな方の空想であることは言うまでもありません。

一回、二回といった時々は予習不足が許されても、それが続けばこれが痛いほどの沈黙が支配する凍った空気の中で、形容しがたい微笑を浮かべたレッスン講師から「辞めますか?今ここで、この場で今すぐ」と尋ねられる未来がやってきます。

ただ、努力しなければ何事も成し遂げられない、それは子どものうちに知っておくべきことです。

そして、それを乗り越えた達成感がどれだけ爽快かということも、新鮮なうちにたくさん経験しておくことが重要だと考えます。

”美しいもの”を知る幸福感

なぜ努力するのか?という思いが帰結するのは、ここです。

美しいものは、そこにあるだけで美しいのですが、音楽の細部を知り、自ら紐解くことで、さらに美しさを深く掘り下げることができます。

レッスンでは、譜読みやリズムのおさらいばかり先に立ってしまいますが、本来は音楽のレッスンで得られるもっとも貴重で素晴らしいもの、それはこの幸福感を分かち合うことなのではないかと思います。

”安い”音楽教室について考えて

色々な考えがあるのは承知で、ピアノは芸事、という考え方が好きです。

芸事は遊芸(茶の湯、生け花、音曲、舞踊など遊びの芸)を意味するので、これまで書いてきたこととは趣きが違って感じられるかもしれません。

しかし、これらの遊芸が古くから(茶の湯は平安時代に伝来したとされています)継承されてきたという事実、専門外の我々が眺めても問答無用に動作が美しいと伝わるということ、それらにピアノを習うことの意味が隠れているような気がしてならないのです。

安い音楽教室について突き詰めていくと、娯楽の多い現代社会において、なぜわざわざ人は楽器を習おうとするのか、という問いにまで行き当たります。そもそも習わなければコストはゼロなはず。しかしなぜ習うのか。

その答えは、芸事/遊芸だから、という点に尽きるのではないかと思うのです。

遊びに費用対効果を求めるのは、野暮なこと、と思えることが、音楽教室の”安い”につながっているのではないでしょうか。